100冊マラソン 11~20冊目

20冊目 『あすなろ物語』 井上 靖

2017.9.10

(読み手 やまね)

あすなろとは、やがてヒノキになろうと思いながら、それが叶わぬ木。叶わなくても、明日(あす)こそはなろうなろうと頑張る木。

この物語の主人公は今生きているとしたら、ちょうど100歳くらい。自分の祖父の時代にあたる。この物語の時代は多くの「あすなろ」達がいたようだ。しかし、時代は軍国ムードが高まるころ。あすなろ達は必死に上を見ようとしながらも、時代の波にのまれて夢を果たせなかった。

頼りなく、決してあすなろとは言えなかったなかった主人公も、周りのあすなろ達に憧れ、影響を受けながら成長し、あすなろ達の思いは主人公にもしっかり引き継ぎ、終戦後もたくましく生きる姿を見せて物語は終わる。

 

今の日本は高みを目指さなくてもある程度満足な生活ができるようになり、冒険するリスクより安全な道を選ぶ風潮も強い。「向上心」なんて言葉も先生のお説教や修辞句のように聞こえてしまい、実態を得ない言葉になりつつある。

終戦の焼け野原を前を向いて歩いた主人公の思いはどこに消えてしまったんだろう…。

答えは分からないが、それほど遠くない昔の日本で、あすなろ達が必死に生きていたことを胸に刻んでいこうと思った。

 

 

 



19冊目『影裏』 沼田 真佑

2017.9.2

(読み手)小町

第157回芥川賞受賞作!

 岩手県の沿岸部を舞台に、地方都市の閉じた人間関係の中で起こる物語。そこへ、東日本大震災の話がからんでくるが、いわゆる「おしつけがましさ」のようなものは一切なく、ぽつりぽつりと主人公とその周囲の人が体験した出来事が語られていく。説明的な描写が少ない点が、かえって読み手を立ち止まらせ考えさせるような印象を受けた。また、「釣り」のシーンをはじめ、情景描写では、岩手の美しい風景と、自然の力強さを感じることができる。選考委員の高樹のぶ子氏の「言葉を掴んでくる視力とセンスに感服」という言葉がとてもしっくりくる。



18冊目『ルビンの壺が割れた』 宿野 かほる

2017.9.2

(読み手)小町

30年ぶりの再会と30年越しの真実

 書簡形式の小説で、男女二人のSNSでのやりとりが交互に記載されていく。物語は、30年前に結婚式をすっぽかされた男性が、SNSを始めたことを契機に、婚約者だった女性を見つけたことから始まる。当初はサイトを通じて当時の懐かしい話に浸っていた二人だったが徐々に雲行きが怪しくなっていき……。という感じ。内容的に少しパンチが効いているので、賛否がはっきり分かれる作品だと思うが、少ないページ数で感情を揺さぶられることは間違いないので、刺激のある読書がしたい方は読んでみてはいかがでしょうか?

 



17冊目『不死症』 周木律

2017.9.2

(読み手)小町

テンポよく読める「バイオホラー」

 山奥の研究所で発生した謎の爆発事故。研究員の夏樹は一命をとりとめるも、記憶を一部失っていた。他の研究員たちと脱出を試みるが行く手には、凶暴化した人々が……というバイオハザードもの。冒頭から終わりまで、物語の先を読みたくなるような情報がテンポよく出てくるので、一気に読めてしまう。中身の濃いバイオホラーを短時間で読みたいという人にお勧めの一冊。



16冊目『こころ』 夏目漱石

2017.8.15

(読み手)やまね

夏になると読みたくなる小説といえばこの一冊。浴衣姿で雑司が谷の墓地に向かう「先生」の後ろ姿のイメージが喚起されてしまいます。そして、「先生」と、振り返るはずもないその人にすがり声をかけたくなる。確か高校の国語の問題集に出ていて知った作品ですが、これまで何度か読み、そのたびに違った感慨で読めるというのも、名作の証なのでしょうね。

作品を構成する「先生と私」、「両親と私」「先生と遺書」の3部それぞれが深い味わいがあります。「両親と私」は、私も両親がだんだん老いてくる年代になり、考えさせられるものがありました。父の死に際して意外なほど冷静でありながら、遺された母を心配するという複雑な気持ちは真に迫っていて、これを読んだ後、なんとなくいつもより親に優しく接しようとしていた自分に気がつきました。

 どんな善人であっても人は時と場合で簡単に悪人になることもあるという、この作品の主題は読むたびに唸らせれます。「先生」がそういう考えに至ったのは、主人公が先生に期待するような深淵な「思想」としてではなく「先生」自身の「生きた経験」からのもの。先生は自分の経験したことを「血潮」と表現している。その言葉は「先生」の裏切りによって自殺したKが流した「血潮」と繋がっている。Kの苦しを「先生」が受け継ぎ、「先生」の遺書を通して若い主人公へと受け継がれていく。

主人公が先生の遺書をどう受け止め、また、それを抱えてどう生きたかは分からないけど、時代はちょうど明治が終わり、大正へ移るころ。「先生」の「血潮」は明治の精神と共に主人公の心にも残っているのではないかと思います。そして、作品をとおしてこれからも私たちに受け継がれていくのでょう。



15冊目『シャーロックホームズの不均衡』  似鳥 鶏

2017.7.23

(読み手)小町

 

 

 事件編の緊張感と日常編のゆるゆる感のバランスがとても絶妙で、読んでいて飽きないテンポの良い作品。

 探偵の型としては、珍しい分離型で、語りは兄が、頭脳労働は妹が担当する。世間一般で探偵だと思われている人物と、実際に解決する人物が違うという点だけを見てみると、『名探偵コナン』のコナンと小五郎の関係に似てなくもない。

 兄が語りを担当するには二つの理由あってのこと。一つは、妹がうまく『しゃべれない』ため。もう一つは、妹を守るため。これだけだと訳がわからないと思いますので、気になった方は一度読んでみてください。シリーズ化していて、現在二巻まで刊行中です。



14冊目 『オラクル・ナイト』ポール・オースター

2017.7.14

(読み手)やまね

<こんな話>

もういつ死んでもおかしくないという病から回復した34歳の小説家がある日、散歩の途中で偶然みつけた文房具店で、妙に惹かれるポルトガル製のノートを手にいれた。そのノートは彼の創作意欲を再燃させ、ある物語を書き始める。現実の世界と小説の中の世界と、小説の中に出てくる小説の世界(いわゆる劇中劇)。この3つが奇妙に符合し、それに引っ張られるように、彼の運命は奇妙な道をたどっていく。

 

<言葉の力とは>

小説や詩で書かれていることが現実化することについて、この作品では「言葉の力」と表現されている。作家や編集者など本を作ることを生業にしている人にとって、物語は、友達のように寄り添うべき存在であり、時にはその人自身を癒してくれる存在でもある。しかし、あまりにのめり込みすぎると、この作品のように「言葉の力」によって作者自身が物語の渦に巻き込まれてしまうこともある。おそろしや。

 

<人類の悲しい運命>

主人公が書く小説の中で、地下に隠された「歴史保存局」のエピソードが出てくる。カンザスシティのとある田舎の廃線の下に、世界各国の、いろんな時代の電話帳がならんだ図書館がある。戦争で絶望的な状況を目の当たりにしてきた男が、「人類の終わり」の記録を残すために作ったのだ。この男が戦争で見てきた「人類の終わり」は、現実の世界で主人公の妻が受けたひどい仕打ちや、文房具店主の暴言と重なっている。人間の残酷さやそれに抗えない無力な人々。それを記録するために男は電話帳を集め、主人公は小説を書くのだろう。読み手である私たちに目を背けるなとでもいうように。なんとも暗い作品だが、オースターの絶妙な語りですらすら読むことができた。



13冊目 『螢草』葉室 麟

2017.7.3

(読み手)kana

「螢草」とは、露草の別名でもあります。
女中の菜々は、奉公先の風早家の庭でかわいらしい藍色をした螢草を見ると、ふっと心がなごみます。
当主、奥方、二人の子ども達のため、彼女は日々懸命に働きます。
奥様の病死、旦那様に仕掛けられた罠など風早家の危機にも菜々は大奮闘。
そんな健気でひた向きな菜々に、幸せの螢草は咲くのでしょうか。



12冊目『りんごの涙』俵万智

2017.6.23


(読み手)やよい

最近読書から足が遠のいていましたが、100冊マラソンの企画を機に蔵の中
の本を手に取ってみました。
まず最初に手に取ってみたのは、現代の歌人・俵万智のエッセイ集。遠い昔
に国語の教科書で紹介されていた現代歌人で、いまだにサラダ記念日の短歌だ
けは覚えています。手に取るとかわいらしい柔らかなタッチで描かれた表紙が
目につきます。おまけに短編集なので、読書から遠のいていた私でもサクサク
と読み進められました。
この本では、短歌や本に関する考察や、日常のふとした場面が切り取られ短
編集となっています。また、高校教師と歌人の二足の草鞋から、高校教師を辞
めるという人生の選択をした際のお話も収録されています。

短歌は日本に昔から伝わる、わずか31文字で表現される世界。短歌に触れ
ることにより日本語の奥深さを感じ、また自分の感性を少しずつ磨きいていき
たいなと感じました。



11冊目『青きドナウ』浅原六郎

2017.6.19

(読み手)kana

「魔性の女」に青春を翻弄される19歳の「僕」。
皆さんの周りには"魔性の女"と囁かれる女性はいますか? 頬にホクロのある、ブルジョア気取りの妖艶な彼女。病床の「僕」の姉の枕元で僕の手を握り惑わせるし、居候の男・岡倉と姉との恋仲を侮辱に満ちた言葉で僕に暴露するし。
その岡倉とも関係した疑惑あり、最後は「僕」の妻子持ちの兄までも…‼
BGMにヨハン・シュトラウスの「青きドナウ」で気持ちを落ち着かせましょう。